東京地方裁判所 昭和29年(モ)2528号 判決
債権者 安室省一郎 外三名
債務者 村田七蔵 外四名
一、主 文
一、当裁判所が、債権者債務者間の昭和二十九年(ヨ)第一、一一六号職務執行停止仮処分申請事件について、昭和二十九年二月十七日にした仮処分決定を取り消す。
二、債権者らの本件仮処分申請を却下する。
三、訴訟費用は債権者らの負担とする。
四、この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
二、事 実
債権者ら訴訟代理人は、主文第一項表示の仮処分決定を認可する。訴訟費用は債務者らの負担とする。との趣旨の判決を求め、その申請理由として、
「一、申請外株式会社山月荘(以下単に申請外会社という)は、料理、旅館業ならびにこれに附帯する一切の事業をすることを目的として、昭和二十七年六月十二日に設立された発行済株式の総数四千株の株式会社であつて、債権者安室省一郎はその六百株の株主で且つ取締役兼代表取締役、債権者長崎栄はその四百株の株主で且つ取締役、債権者佐藤精三及び同中島鉄雄はいづれもその二百株の株主で且つ取締役である。
二、申請外会社は、昭和二十八年十月三十日新宿区下落合三丁目千二百二十五番地のその本店に臨時株主総会を招集し、同総会で取締役安室省一郎、同長崎栄、同佐藤精三、監査役遠藤清四郎をそれぞれ解任し、債務者村田七蔵、同村田サタ、同村田中、同稲葉利勝、同上野彦治をそれぞれ取締役に、申請外長谷川正、同津川長次をそれぞれ監査役に選任する旨の決議がなされた(以下単に本件総会又は本件決議という)として、同年十一月十日その旨の登記を了している。
三、しかしながら、本件総会招集当時の申請外会社における株主総会招集権者は、代表取締役である債権者安室であるのに、本件総会は同債権者の招集したものではなく、招集権限のない債務者村田サタが招集したものであるから、本件総会は不成立であり、従つて、本件決議もまた不存在のものである。
四、仮に、右三の申請理由が認められないとすれば、予備的に順次次の事実を主張する。すなわち、
(1) 本件総会の招集手続には、株主である債権者ら四名にその招集の通知を発しなかつた瑕疵がある。
(2) 本件総会の招集手続には、その招集を取締役会の決議に基かないでした瑕疵がある。
(3) 本件決議には、発行済株式の総数四千株のうち前記主張の総計二千八百株の株主が加わらないので取締役の選任決議につき必要な定足数を満たさずに決議した瑕疵がある。
従つて、本件決議は取消を免れないものである。
五、そこで、債権者らは申請外会社を相手方として、第一次的にその取締役である地位にもとずき本件決議の不存在確認を、予備的に、申請外会社の取締役且つ株主である地位にもとずき本件決議の取消をそれぞれ求めるため、昭和二十九年一月二十九日東京地方裁判所に本案訴訟を提起したけれども、債務者らはすでに取締役に就任したとして前記のようにその旨の登記を了し、申請外会社の主要財産である建物に抵当権を設定して金五百万円を他より借り入れる等しており、このまゝ右本案訴訟の判決確定に至るまで放置するにおいては、申請外会社に回復することのできない損害を生ずるおそれがあるので、これを避けるため、債務者らを相手方として職務執行停止、代行者選任の仮処分命令を申請したところ、昭和二十九年(ヨ)第一、一一六号事件として昭和二十九年二月十七日本案判決確定に至るまで、債務者村田七蔵は申請外会社の取締役兼代表取締役の、債務者村田サタ、同村田中、同稲葉利勝、同上野彦治は同会社の取締役の各職務執行をしてはならない、右停止期間中、同会社の取締役兼代表取締役の職務代行者として弁護士吉永多賀誠を、取締役の職務代行者として弁護士徳田敏二郎、同島田徳郎をそれぞれ選任する旨の仮処分決定がなされた。もとより、この決定は至当なものであるから、その認可を求める」と述べた。
債務者ら訴訟代理人は、主文第一項ないし第三項と同趣旨の判決を求め、答弁及び異議理由として、
「(一) 申請の理由一の事実中、申請外会社の目的、設立年月日、発行済株式の総数が債権者ら主張の通りであること及び債権者佐藤、同中島が昭和二十八年十月十六日まで、債権者長崎が同月十五日まで取締役の地位に、債権者安室が同月十五日まで取締役兼代表取締役の地位にあつたことは認めるけれども、その他の事実は否認する。
(二) 申請理由二の事実を認める。
(三) 申請理由三の事実中、本件総会が債権者安室の招集したものではなく、債務者村田サタの招集したものであることは認めるけれども、その他の事実は否認する。もつとも、債権者安室は代表取締役たる地位にはなかつたが、取締役の員数が法定の数にかけていたため本件総会当時、代表取締役の権利義務を有していたことは認める。
(四) 申請理由四の事実中(1) の本件総会の招集通知を債権者ら四名に発しなかつたことは認めるけれども、その他の事実はすべて否認する。
(五) 申請理由五の事実中、債権者ら主張の建物に抵当権を設定したことは認めるが、同抵当権は極度額五百万円の根抵当であつて借入金は金三百万円である。
(六) (1) 債務者村田サタは、昭和二十八年七月二日以降申請外会社の常務取締役の地位にあるが、同会社の定款第二十四条には『取締役会の決議により会社を代表すべき取締役として社長一名専務取締役及び常務取締役各若干名を選任する』旨の規定があり、同債務者は常務取締役として右定款の規定により同会社を代表すべき権限があるから、同債務者が招集した本件総会による本件決議は有効に存在している。
仮にそうでないとしても、債権者安室は昭和二十八年十月十六日口頭で代表取締役辞任の意思を表明して社長印、書類等を引き渡し、爾来会社事務に干与しようとしなかつたので、申請外会社の定款第二十四条、第二十七条の規定に基き、代表取締役に事故あるものとして常務取締役である債務者村田サタにおいてその職務を代行して本件総会を招集したものであるから、本件総会による本件決議は有効に存在している。
(2) 債務者村田七蔵は、昭和二十八年十月十五日債権者安室との間に、同債権者所有の申請外会社の株式六百株を一株七百五十円(額面より五割増しの金額)の割合で買い受け、同債権者に債権者長崎栄所有の株式四百株、同佐藤及び中島所有の株式各二百株、申請外遠藤清四郎所有の株式四百株、同中江金松所有の株式三百株、同佐々木鎌之助及び同宮地秀一所有の株式各二百株、同豊岡義則、同成田義隆及び同武新十郎所有の株式各百株合計二千二百株をそれぞれ各株主から右と同じ割合の代金で債務者村田七蔵のために買い受けることを委任する旨の契約を締結し、その代金及び委任事務処理の費用(すなわち債権者安室以外の右各株主に対する買受代金)として合計二百十万円を債権者安室に交付した。そうして、債権者安室において同日、同人所有分を除く右二千二百株の株式については債務者村田七蔵の代理人として、右各株主に対し、それぞれ株式数に応ずる前記割合による代金を交付し、右各株主からその白地裏書のある株券を受領し、自己所有分の前記六百株の株式についてはその株券に白地裏書をしたうえ、その後は債務者村田七蔵のために占有すべき意思を表示したので、同債務者は有効に前記合計二千八百株の株主権を取得した。
そこで、債務者村田七蔵は、申請外会社の代表取締役である債権者安室において同債務者のために占有中の右二千八百株につき、同月十六日申請外会社に対し名義書換の請求をし、申請外会社においても右株式移転の事実を承認して株主名簿の名義書換手続を了した。従つて、債権者ら四名はすでに申請外会社の株主ではなく、同会社が本件総会の招集通知を債権者ら四名に発しなかつたことは何ら招集手続の瑕疵に当らない。
(3) 債権者長崎は昭和二十八年十月十五日取締役を辞任し、他の債権者三名も同月十六日それぞれ取締役辞任の申出をし、社長印、会社印をはじめ申請外会社の経営に必要な書類を常務取締役である債務者村田サタに引き継いだ際、株主総会の招集手続を同債務者に一任した。従つて、本件総会招集のための申請外会社の取締役会決議は、債務者村田サタが債権者ら四名より表決の委任を受けてこれを決したもので、適法に成立したものというべきである。
仮に、本件総会の招集手続につき取締役会の決議を経ない瑕疵があるとしても本件総会には株主全員十四名が出席し、全員何らの異議なく議決して本件決議が成立しているのであるから、債権者らの本件決議取消の請求は、軽微な招集手続の瑕疵を理由とする権利の濫用であり、ないしは訴の利益を欠くものであつて許されない。
(4) 仮に、債務者村田七蔵が前記二千八百株の譲受につき、その株券の現実の引渡を受けなかつたため、同債務者の株主権取得につき不備があるとしても、もともと債権者ら四名は債権者安室が占有中の前記株券を債務者村田七蔵に引き渡し、株式移転の効果を完全にするため協力する義務があるのに、債権者らは前記株式の譲渡代金が九百五十万円であるという口実を設けてその引渡を拒んでいるのであるから、民法第百三十条の法意に鑑みても、債務者村田七蔵は債権者らに対し株券の現実の引渡しがなくても株主権の取得を主張することができるというべきである。
また、債務者村田七蔵の前記名義書換請求に当り、現実にその株券の呈示をしなかつたため名義書換手続として不備の点があるとしても、申請外会社の代表取締役である債権者安室において債務者村田七蔵の名義書換請求に対し何らの正当の理由がないのにこれを拒絶したのであるから、債務者村田七蔵は前記取得にかゝわる株式について申請外会社に対し株主たることを主張することができるというべきである。
(5) 債権者安室は債務者村田七蔵に対し前記二千八百株の株券を引き渡す義務があるのに、たまたま右株券がその手中にあるのを奇貨とし、虚構の口実を設けてその引渡を拒み、本件決議の取消を主張するのは信義則に反し許されない。
以上、いずれの点よりしても本件仮処分申請は不当であるから本件仮処分決定の取消を求める。」と述べた。
債権者ら訴訟代理人は、債務者らの主張に対し、
「(六)の(1) の事実中、債務者村田サタが申請外会社の常務取締役であること、同会社の定款第二十四条に債務者ら主張のような内容の規定があり、同条及び第二十七条に『社長に事故あるときは常務取締役がその職務を代行する』という趣旨の規定があることは認めるが、定款第二十四条の規定は、申請外会社の代表取締役として、社長一名を取締役会で選任する旨を定めた規定であつて、常務取締役は申請外会社の代表権を有しない。債権者安室が代表取締役辞任の意思を表明して、社長印及び書類等を引き渡したこと、本件総会招集当時債権者安室に代表取締役の職務を行うことのできない事故があつたことは否認する。
(六)の(2) 事実中、債権者安室が昭和二十八年十月十五日に債務者村田七蔵から二百十万円の交付を受けたこと、債務者ら主張の二千八百株のうち、宮地秀一所有の二百株を除く他の株券の裏書人調印欄にそれぞれ各株主名義人の捺印があること、右二千八百株のうち宮地秀一所有の二百株及び債権者長崎所有の四百株を除く他の株券を現に債権者安室が占有していることは認めるけれども、その他の事実は否認する。
債権者安室は昭和二十八年十月十五日債務者村田七蔵との間に債務者ら主張の二千八百株を、債権者安室所有分以外の株式についてはそれぞれ各株主代理人たる資格を兼ねて、合計九百五十万円で譲渡する旨の予約をし、同日その内金として前記二百十万円を受領したが、また残代金の支払を受けていないし、もとより右株券を債務者村田七蔵のために占有すべき意思を表示したことはないから、債権者ら四名はいずれもまだ株主たる資格を有している。そうして債務者ら主張の名義書換は申請外会社に対し株券の現実の呈示がないのに行われたものであるから無効である。
(六)の(3) の事実中、債権者ら四名が取締役辞任の申出をしたこと、社長印及び会社印等を引き渡したことは否認する。」と述べた。
<立証省略>
三、理 由
一、申請外株式会社山月荘(以下単に申請外会社という)の目的、設立年月日及び発行済株式の総数が債権者ら主張の通りであることは当事者間に争がない。そうして債権者佐藤、同中島が昭和二十八年十月十六日まで、同長崎が同月十五日まで申請外会社の取締役の地位に、債権者安室が同月十六日まで同会社の取締役兼代表取締役の地位にあつたことは当事者間に争なく、債権者らはいずれもなお右地位を存続していると主張するのに対し、債務者らは右各日時にそれぞれ債権者らは辞任したと主張するところ、債務者提出の乙第二号証及びその他の人証をもつてしても、債権者らが右各日時に正式に申請外会社に対し辞任の申出をしたことの疏明を得られないので、少くとも本件決議当時まで債権者らはいずれもその主張の地位を有していたものといわなければならない。
二、本件総会が債権者安室において招集したものではなく、債務者村田サタにおいて招集したものであること、当時同債務者が申請外会社の常務取締役の地位にあつて、その定款第二十四条に「取締役会の決議により会社を代表すべき取締役として社長一名、専務取締役及び常務取締役各若干名を選任する」という内容の規定があることは当事者間に争いがない。
ところで、成立に争いのない乙第三号証(申請外会社の定款)によれば、申請外会社の定款は、その第二十三条において代表取締役の選任及び解任につき「代表取締役の選任は取締役会の決議による。解任の場合もまた同じ」と規定するほか、第二十四条において前記内容の規定に引き続いて「社長は業務の遂行を統轄し、専務及び常務取締役は社長を補佐するとともに社長事故あるときはその順に従つて社長の職務を代行する。代表取締役の解任は取締役会の決議による」と規定していることが疏明される。
従つて、前記定款第二十四条は、その規定の位置及び内容からいつて、申請外会社を代表すべき取締役として、社長一名、専務取締役及び常務取締役各若干名を取締役会において選任すべきことを定めたものと解するのが相当であつて、債務者村田サタが本件総会招集当時常務取締役であつたことは当事者間に争がないから、同人は申請外会社の代表取締役たる地位を有していたものというべく、而も共同代表の定のあることについては何等の主張も疏明もないので、同人は単独で右会社の代表権を有するものであるから、同人のなした本件株主総会の招集はその権限内の行為であり、たとえその代表権の行使について定款に社長たる代表取締役との間に順序を定める規定があつて、右総会招集がこれに違反してなされたとしても、その招集は単なる内部の事務分配上の定に反してなされたものに過ぎず、その法律上の効果に影響を及ぼすものとはいえない。従つて債務者村田サタが本件総会の招集権限を有しないことを前提とし、本件総会決議が不存在であるとする債権者らの主張は採用し難い。
三、昭和二十八年十月十五日当時において債権者安室が申請外会社の六百株の株主、同長崎が四百株の株主、同中島及び同佐藤が各二百株の株主であつたこと及び申請外会社の同年十月三十日の臨時株主総会において債権者ら主張のような決議がなされたことは当事者間に争いがない。
ところで、成立に争いのない甲第一号証の一ないし四、同第二号証、乙第一号証に証人佐々木鎌之助の証言、債務者村田七蔵、同村田サタの各本人尋問の結果を考え合わせると、債務者村田七蔵は申請外会社の社長であり、その実権を有する債権者安室との間に予ねてより同会社の営業の実権を承継することについて協議を進めていたが、昭和二十八年十月十五日同債権者との間に、一株金七百五十円(額面より五割増しの金額)の割合で同債権者所有の前記六百株のほか、債権者長崎所有の前記四百株、同佐藤及び同中島所有の前記各二百株、申請外遠藤清四郎所有の株式四百株、同中江金松所有の株式三百株、同佐々木鎌之助及び同宮地秀一所有の株式各二百株、同豊岡義則、同成田義隆及び同武新十郎所有の株式各百株合計二千八百株を債権者安室において取りまとめて債務者村田七蔵に取得せしめる旨の契約を締結し、同債権者分の株式代金及びその取りまとめの費用(すなわち、債権者安室以外の右各株主に対し支払うべき買受代金)として合計二百十万円を同債権者に交付したこと(この交付の事実は争いがない)、そこで、債権者安室は同日前記各株主に対しそれぞれ前記株式数に応ずる前記割合による代金を交付した(たゞし、佐々木鎌之助に対し支払うべき代金十万円は別途に交付された)うえ、宮地秀一を除く右合計二千株の各株主からそれぞれその所有する前記各株式につきその株券の裏書欄に右各株主の捺印のみによる白地裏書を受けて、それぞれその株券を受領したこと、債権者安室はその所有の前記株式につき同様その株券の裏書欄に捺印のみによる白地裏書をしたうえ、同月十六日ごろ債務者村田七蔵に対し電話をもつて前記株式につき買集めが完了したので自己所有分の前記六百株の株式をも含めた株券を引き取られたい旨及び同債務者において取得した右二千八百株の株式については新株主に名義書換をすることは自由であるから早急に株主総会を開催し、且つ増資手続をして債権者らに対する申請外会社の債務支払の方途を講ずるよう通知し、なお同債務者の使者として株券受領のため同債権者方に赴いた佐々木鎌之助に対しても右同様の申出をしたほか、さらに右会社債務の支払方を強調し「株券はあとで自分が届ける」旨を言明してその旨同債務者及び債務者村田サタに伝えさせたこと(前記株式二千八百株のうち宮地秀一の二百株を除くその他の株券の各裏書人調印欄に各株主名義人の捺印があることならびに宮地秀一の二百株及び債権者長崎の四百株を除く株券を現に債権者安室において占有していることは債権者らの自認するところである)、債権者安室は同日ごろ債務者村田サタに対し申請外会社の社印、社長印、取締役印等を引き渡し、爾後における株主名簿の名義書換、株主総会の招集等の会社事務の処理を一任したこと、次いで同日ごろ、債権者安室が未だ前記二千六百株の占有中に債務者村田七蔵の請求により債務者村田サタが常務取締役の責任において前記二千八百株につき債務者村田七蔵を株主とする名義書換手続を了したことがそれぞれ疏明され、右に反する債権者安室省一郎、同長崎栄及び同中島鉄雄の各本人尋問の結果は採用し難い。
そうしてこれ等の事実を綜合すれば、(一)各株券(宮地秀一所有分を除く)になされた前記のような捺印のみによる裏書も補充権を後の取得者に委任した有効のものというべく、(二)債務者村田七蔵及び債権者安室間の前記株式「取りまとめ」に関する契約は同債権者を同債務者の受任者とし、且つ代理人として株式の譲受、株券の受領行為をなさしめたものとするのが相当であるから、少くとも債権者長崎、同佐藤及び同中島の有していた株式を含む前記二千株の株式(宮地秀一所有分を除く)については有効に債務者村田七蔵に譲渡されたものと見得られ、(三)前疏明事実における債権者安室のその所有分の債務者村田七蔵に対する株式譲渡の場合、同人が同時に会社の代表取締役たる資格を有しながら株式名義書換手続及び新株主による株主総会招集を株式譲受人及び代表権ある常務取締役に特に許容することは、その株券の裏書行為、引渡の通知等と相俟つて株式譲渡に必要な株券引渡の占有改定の意思表示があつたものとみなすに十分であり、占有改定による株券の引渡を以つて株式の譲渡に必要な株券の交付となし得ない理由はないから、同債権者の有した株式六百株についても有効に裏書による譲渡があつたものというべく、(四)前記の通り偶々債権者安室が前記二千六百株の株券を占有中、その株式譲受人たる債務者村田七蔵から代表取締役たる債務者村田サタに対して株式名義の書換請求があり、偶々その頃同じく代表取締役たる資格を有する同債権者から右村田サタに対し右株式名義の書換を許容し、且つ、新株主を基礎として株主総会を招集すべきことを申し出た以上、本件申請外会社のように小規模で又同債権者の実権の下にあるような関係においては、同債権者は同時に会社の代表取締役たる資格において株券の呈示を受け株式譲渡についての審査をなしたものと同視すべきであるから、前記株式譲受人たる債務者村田七蔵から改めて右株券を会社に呈示しなくても同人の右名義書換請求に基く前記株式名義の書換は少くとも申請外宮地秀一所有分の株式二百株を除く部分については有効であるばかりでなく、(五)当該株式譲渡が有効に行われ、その株式譲受人の請求によつて、会社の代表取締役による株式名義の書換がなされた以上、当該株式名義書換が株券の呈示なくしてなされたものであつても株式譲渡人は従前の自己の株式名義上の権利を主張し得ないものであるから、結局右宮地秀一を除くその余の前記旧株主は申請外会社に対し右株式名義書換以後同株式について株主たる権利を主張し得ないものといわなければならない。
従つて、申請外会社が本件総会を招集するにつきその通知を債権者ら四名に発しなかつたとしても、本件総会の招集手続に瑕疵があるとはいえないから、この点に関する債権者らの主張は採用しない。
四、債権者らは本件総会の招集手続にはその招集を取締役会の決議に基かないでした瑕疵があると主張するけれども、株主総会の招集は取締役会がこれを決するものではあるが、その決定は一般の業務執行の場合と同様会社機関の内部の意思決定であるから、その内部の意思決定が欠け又はこれに瑕疵があつても有効な代表権に基いてなされた会社の行為の法律上の効力に影響を及ぼさしめるべきではないので、前記のとおり代表権限を有する取締役たる債務者村田サタによつてなされた本件総会の招集が、取締役会の決議に基かないからといつて、これをその招集に係る総会決議の取消原因となし得ず、従つて債権者らの右主張も採用の余地がない。
五、債権者らは本件決議には前記主張の二千八百株の株主が加わらないので取締役選任決議の定足数を欠くと主張するけれども、既に前説明の通り少くともそのうち前記二千六百株は債務者村田七蔵において本件総会決議前に譲り受けていることが疏明されるので、その譲受のないことを前提とするこの主張は理由に乏しく、その他にこの点についての何らの疏明がないから債権者らの右主張も採用しない。
六、結局、債権者らが本件決議の不存在確認ないし取消請求権を有することを前提とする本件仮処分申請はいずれもその疏明がなく、また、保証をもつて代えしめることも相当でないから、さきに右申請を認容してした本件仮処分決定は民事訴訟法第七百五十六条、第七百四十五条第二項によりこれを取り消し、債権者らの本件仮処分申請はこれを却下することとし、訴訟費用について同法第八十九条、第九十三条、仮執行の宣言について同法第百九十六条、第七百五十六条の二を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 畔上英治 岡田辰雄 西村法)